タイトル数論・論理・意味論 その原型と展開: 知の巨人たちの軌跡をたどる
著者・編者;野本和幸
出版社;東京大学出版会
出版年;2019年
ISBN;9784130101356
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内容紹介

数とは何か――紀元前から問われてきた、普遍的な問い。数論や論理、そして言葉の意味理解をめぐって、この問いに挑み、19世紀後半から20世紀後半に活躍した数学者・論理学者たちの思考の足跡を、彼らが残した著作・講義録・遺稿などの詳細な解読を通してたどる。

★田中一之氏(東北大学大学院理学研究科教授)推薦
「数とは何か」という数学者の問いは、「数学の真理」とは何かという数学基礎論に発展し、さらに「言葉の意味」とは何かという哲学の難題に至る。1世紀以上にわたり知的巨人たちによって繰り広げられた辛苦の戦いの歴史を厖大な資料分析によって解き明かした待望の「戦記物」的研究書である。

★飯田隆氏(慶應義塾大学名誉教授)推薦
[出版社注:飯田隆先生から詳細な推薦文を頂戴しました。ここにその全文を掲載いたします。]

野本和幸『数論・論理・意味論 その原型と展開』の刊行に寄せて

野本和幸氏が、『フレーゲ哲学の全貌――論理主義と意味論の原型』(2012年、勁草書房)に引き続き、『数論・論理・意味論 その原型と展開――知の巨人たちの軌跡をたどる』をまとめられたことを、まず祝いたい。前著は686頁という大著であったが、今回の著作はそれに勝り、700頁を超えると聞く。前著は、そのタイトル通り、そのごく初期から晩年に至るまでのフレーゲの学問的業績を、近年ますます数の増えている歴史的・理論的なフレーゲ研究の成果を踏まえながら、丹念にたどったものであった。それに対して、今回のテーマは、フレーゲがひとつの重要な中心であることに変わりはないにしても、他にもいくつかの中心がある、19世紀後半以降の、数学と論理学の哲学ならびに言語哲学の展開を展望することにあるとみえる。この展望のなかでとくに重要な位置を占めるのは、デーデキント、フレーゲ、ヒルベルト、ゲーデル、タルスキである。こうした名前を見てまず思うことは、そのほぼ全員が、大学の学科の分類で言えば数学に属するということである。しかし、この人々はすべて自分の専門であった数学や論理学について明確な哲学をもっていた。それは、漠然とした「数学観」とか「論理観」といったものではなく、緻密な哲学的議論によって擁護することの可能なはっきりとした主張から成るものであった。そして、かれらのそうした哲学が、20世紀以降のいわゆる分析哲学の成立と展開にとって決定的な影響を与えたのである。

現在の分析哲学は、その主題においても手法においてもきわめて多様化していて、歴史的な出自以外に共通する特徴というものを挙げることは不可能だが、しばらく前まで、たぶん1970年代頃までは、そうしたものを挙げることもできた。ひとつは、哲学的な主張を明確な形で提示するとともに、それを明示的な論証で擁護するスタイルであり、もうひとつは、その際にフレーゲ以降の現代論理学を分析的道具として用いることである。本書の後半3分の1ほどで扱われている言語哲学上の議論に、両者の特徴を典型的に見ることができる。そこでは、様相や信念といった哲学的な概念についての理論を構成し、そこからの帰結を検討するという形で、哲学的議論が進行する様子を見ることができる。こうした議論のスタイルは、もとをたどれば、先に名前を挙げた数学者や論理学者の仕事のなかに見出すことができる。フレーゲの論理学そのものが、そうした哲学的理論の典型とみなすことができるが、デーデキントの無理数論と自然数論、フレーゲの自然数論、ヒルベルトとゲーデルのメタ数学的探究、タルスキの真理論、これらすべては、こうした哲学的理論でもある。

前世紀の末より、分析哲学の輪郭がぼやけてくるのとほぼ同時に、その共通の根を探る歴史的探究が盛んになってきた。そうしたなかでクローズアップされてきたのは、19世紀後半のドイツの知的土壌である。フレーゲを分析哲学の出発点とみなすという現在の了解が作られるのにもっとも貢献したダメットの『フレーゲ――言語の哲学』(1973年)を読むと、読者は、フレーゲが、他からの影響をほとんど受けず、独力で新しい論理学と言語哲学とを切り開いた人物であったという印象を受ける。これから半世紀近く経った現在、フレーゲもまた時代から独立していたわけではないこと、また、フレーゲが専念した分野において独創的な仕事をなしたのはフレーゲだけではなかったことが知られるようになってきている。本書は、そうした人物のうちでもっとも重要なひとり、デーデキントの仕事の検討から始まる。最近まで未公刊だった講義録や遺稿などの豊富な新資料に基づいて描かれる、数学、論理学、哲学の三者のあいだの実り豊かな交渉のありさまは、現在のわれわれにも希望と勇気を与えてくれるにちがいない。

【主要目次】

まえがき――知の巨人たちの戦記物語
  1. 数とは何であるのか? 
  2. カントの問題設定 
  3. カントからデデキントへ 
  4. カント、デデキントからフレーゲへ――「論理学の革命」 
  5. 数学の危機とメタ的研究
序論 数論・論理・メタ数学の誕生と真理論・意味論の展開
  1. 論理主義の誕生と現代論理学の創始(第1章から第4章) 
  2. 数学基礎論とメタ数学(第5章から第8章)――ヒルベルトからゲーデルまで 
  3. 真理・モデル・意味の理論の誕生と展開(第9章から第12章) 
  4. 補論
第I部 論理主義の誕生と現代論理学の創始――デデキント、ブール-シュレーダーからフレーゲへ
第1章 デデキントの数論――論理主義の一つの出発点
  1. 第1期の集合論的論理主義 
  2. デテキントの無理数と連続性の問題――その背景 
  3. デデキントの『無理数論』(1872) 
  4. 無理数から自然数へ 
  5. デデキントの自然数論 
  6. 「数の理論(Wissenschaft der Zahlen)」の公理的構成再論D(7) 
  7. 連鎖と完全帰納法についてD(8)
  8. 「綜合」――数論の公理的展開の開始D(9) 
  9. 基数論
  • 付論1 デデキント、フレーゲ、ペアノ 
  • 付論2 「カントル-デデキント往復書簡」
第2章 ブール-シュレーダーの論理代数的論理主義
  1. 現代論理学の二つの源流 
  2. シュレーダーの論理代数
第3章 フレーゲの論理主義――「判断優位説」と「文脈原理」
  1. 『概念記法』の概観
  2.  『概念記法(BS)』と判断優位テーゼ(PJ) 
  3. 序数論から基数論へ 
  4. フレーゲ『算術の基礎』における「文脈原理」と「ヒュームの原理」 
  5. 『算術の基本法則』におけるフレーゲの論理と数学の哲学 
  6. フレーゲの算術の哲学(B)――実数の理論と形式主義批判(『基本法則』第II巻(1903)第III部)
第4章 ラッセルの論理主義と知識論抄
  1. ラッセルの生涯と初期ラッセルの哲学 
  2. 『数学原理』(PM)におけるラッセルの論理主義 
  3. 知識の理論 
  4. 政治社会倫理思想
第II部 数学基礎論とメタ数学――ヒルベルトからゲーデルまで
第5章 ヒルベルトの数学基礎論――メタ的形式主義への歩み
  1. 諸パラドクスの発見――数理論理学に向けて(1899-1917) 
  2. ヒルベルトのパリ講演(第2回国際数学会、1900) 
  3. 論理学とメタ数学(1917-1920) 
  4. 論理学から証明論へ(1920-1925) 
  5. 初等有限性定理(1925-1931) 
  • 付論 集合論のパラドクスと公理的集合論の展開
第6章 完全性前史――ポスト-ヒルベルト-ベルナイスとヒルベルトの問題提起
  1. 背景――命題論理の完全性 
  2. ヒルベルトとベルナイス 
  3. ベルナイスの完全性、無矛盾性、決定可能性 
  4. 完全性に関する謎 
  5. ヒルベルト-アッケルマン『理論的論理学』初版(1928)での完全性問題の提起 
  6. ベルナイスの貢献とヒルベルト講義
第7章 ゲーデルの完全性定理および不完全性定理への予示
  1. ゲーデルの完全性定理――その生成
  2.  「完全性定理」の証明(1929)
第8章 不完全性定理の概要
  1. いわゆる「不完全性定理」の提示を巡って 
  2. 「不完全性定理」の概略 
  3. 「不完全性」定理とヒルベルト形式主義の評価再論
第III部 真理・モデル・意味論の誕生と展開――タルスキの真理論とモデル理論
第9章 タルスキの真理定義――メタ理論の構築
  1. 絶対的真理概念の定義 
  2. モデル論的意味論への歩み 
  3. 「真理概念」論文とその前後 
  4. 「真理概念」論文の読解 
  5. 絶対的真理とモデル相対的な真理概念 
  6. 相対的真理――要約 
  7. 無限層の言語 
  8. 意味論的アンチノミー 
  9. 「真理の構造的(統語論的)定義」と「再帰的枚挙可能性」、および「真理の一般的な構造的規準」と「一般的再帰性」――無限帰納法 
  10. まとめと後記
第10章 内包的意味論の展開――カルナップ・チャーチ・モンタギュからクリプキ・カプランへ
  1. カルナップの転向 
  2. 内包論理の意味論――様相論理 
  3. モンタギュ文法 
  4. デイヴィドソンの意味理論瞥見 
  5. 様相とモデル
第11章 直接指示、意味、信念
  1. 知・信の論理 
  2. 直接指示――単称名辞の意味論 
  3. 信念帰属の統語論的・意味論的考察
第12章 フレーゲ再考――意味・意義・真理
  1. フレーゲ-ラッセル往復書簡(1902-1903) 
  2. フレーゲの意味・意義論再考 
  3. フレーゲによる意義の公的な導入――「意味と意義について」[SB] 読解 
  4.  『算術の基本法則』の意味・真理・思想 
  5. 判断・文の優位性と固有名の有意味性 
  6. フレーゲ的意義の諸相とその射程 
  7. 認知的意義再論――フレーゲ的アイディアのさらなる展開可能性 
  8. 発話の力と発語内行為遂行、判断・主張と推論 
  9. 色合い・陰影の論理――論理学と修辞学
補論1 言語と哲学――言語的転回の射程
  1. 数の存在とフレーゲの文脈原理――言語的転回(1) 
  2. 認識価値と意義――言語的転回(2) 
  3. 真理条件的意味論の先駆――言語的転回(3) 
  4. 体系的意味理論のプログラム――言語的転回(4) 
  5. 指示と真理――言語的転回(5) 
  6. 信念帰属の意味論――言語的転回(6)
補論2 ことばと信念序説――デイヴィドソンとダメットを手引きに
  1. 行為と信念 
  2. 信念帰属に関わる予備的問題――公共性と個人的側面 
  3. フレーゲの意義(Sinn)における乖離 
  4. 信念の対象について 
  5. 背景(1)言語的転回――言語の優位テーゼ 
  6. 背景(2)――共通言語と個人言語 
  7. 背景(3)――意味と理解
  • あとがき
内容(「BOOK」データベースより)

数とは何か?論理は数論とどう関係し、数論や論理は、ことばの意味とどう関係するのか?

著者について

野本和幸: 東京都立大学名誉教授/創価大学名誉教授

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

野本和幸
1939年東京都生まれ。1958年埼玉県立浦和高校卒業、1962年国際基督教大学卒業。1964年京都大学大学院文学研究科・西洋近世哲学史修士課程修了、1967年同博士課程単位取得退学。1988年文学博士(「フレーゲの言語哲学」、京都大学)。1967年茨城大学文理学部・教養部専任講師、同助教授(1970‐1978年)、同教授(1978‐1984年)、1977‐1978年ACLS(全米学術協会)招聘研究員(UCLA哲学部研究員)、1979‐1980年フンボルト財団招聘研究員(ゲッティンゲン大学哲学部研究員)、1985‐1991年北海道大学文学部哲学科西洋哲学(現代哲学)教授、1991‐2001年東京都立大学人文学部哲学科教授。1991‐1992年フンボルト財団ヨーロッパ研究員(コンスタンツ大学、オックスフォード大学各哲学部研究員)、2001‐2010年創価大学文学部教授。現在、東京都立大学名誉教授・創価大学名誉教授。主要学会活動:日本科学哲学会会長(2000‐2005年)、科学基礎論学会理事(1993‐2010年)、日本哲学会(委員1996‐2007年)、LMPS(理事1995‐1999年)他。専門:論理・言語・数学の哲学の歴史的・体系的研究(カント、フレーゲ、デデキント、ヒルベルト、ゲーデル、タルスキそしてその後)。著書『フレーゲ哲学の全貌―論理主義と意味論の原形』(勁草書房、2012年)で和辻哲郎文化賞受賞。訳書『フレーゲ著作集』全6巻(編・訳+解説、勁草書房、1999‐2002年)で2002年度日本翻訳出版文化賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)